のり弁のおはなし

のり弁ってあるじゃないですか。

このエントリを書く前にちょっとのり弁について調べてみようと思って、調べるっていってもWikipediaでチラっとみるだけですけど、調べてみたんですよね。そしたらこれを始めたのはどうやら「ほっかほっか亭」らしいということが書いてある。
そもそものり弁っていうのは、だいたいご飯があって、その上に海苔がのせてあって、白身魚のフライになぜか「ちくわ」(てんぷらにしてある場合も多い)ここまでが不動のオーダーとなってるわけです。そしてあとはまあ、きんぴらごぼうだとか(これはかなりレアかもしれないけど)卵焼きなんかがきて、それで晴れて「のり弁」ということになるわけですが、まあものの見事にどこのホカ弁でもコンビニでもこの通りなんですよね。

話がそれましたが、わたくしこののり弁というのがかなり好きで、安い(だいたいホカ弁屋で一番安いのがのり弁)のとあいまってホカ弁屋に行くとのり弁ばかり頼むわけです。すると、これはかなり僕の被害妄想というか、気のせいかもしれないですけど、あまり店の人にいい顔をされないわけですよね。ちょっと前にバカ売れしたクリス・アンダーソンの「FREE〜なんちゃら〜」っていう本がありましたけど、のり弁っていうのは(おそらくですが)ホカ弁屋にとっては「無料お試し版」みたいなもんで、あまりそればかり頼まれると困るわけです。多分ですけどね。だって、いくら肉っ気がないのり弁とはいえ、平気で350円とかいって売ってるわけですから、そればっか頼まれると利ざやが薄すぎてしんどいわけです。憶測ですがね。最初はのり弁を食べてもらって、ゆくゆくは「から揚げ弁当」や「焼き肉弁当」を頼む優良顧客に育てていかないといけないわけです。

そこへきて僕は、毎日(さすがに毎日は行かないですけどね)のように「のり弁」をオーダーするんだから、店の人としては僕に弁当を渡すときは精いっぱいの渋面をつくって、挨拶などもできるだけ「っしたー」などのように、おざなりなものにして「お前は今間違ったことをしているぞ」ということをアピールせんければいかんわけです。毎日のようにそうしたおざなりな対応を受けていると、当然かなり鈍感というか空気の読解力にやや難がある僕にもある種の疑念が芽生えてきます。「どうもおかしいな?」と。

そこで僕はまず仲のいい友人に相談してみました。「これこれこういうわけでホカ弁屋の店員の対応に疑義をもっておる」と。その友人は僕の疑問を快活な笑いで退け、「それは考え過ぎやろ」と取り付く島もありません。しかし、と食い下がる僕に対して、友人はいよいよしびれを切らしたようで、「ならば一度その店でから揚げ弁当などの高級な弁当を買ってみよ。さすれば汝の疑いも晴れよう。」と言って歩き去りました。それはよい考えだ、僕は深く感じ入って、次にくだんのホカ弁屋に行った際はから揚げ弁当などの高級弁当を求めよう、と心に決めました。

そう決めてからはなぜかホカ弁屋にも足が向かず、もっぱら駅前のそば屋で丼物などを頼んで使っておりました。そして年の暮れのある日、ふとホカ弁屋に立ち寄る機会を得たのです。僕は友の忠言に従い、から揚げ弁当を、それも大盛りで注文しました。650円の注文です。ホカ弁屋はこの突然舞い込んだ大口の注文に上へ下への大騒ぎとなりました。厨房からはひっきりなしに怒声や金物を扱う音が響いてきます。そしてややあって、ほかほかのから揚げ弁当(大盛り)が運ばれてきました。店のおかみさんは心なしか嬉しげでした。しかし、いつもの僕が見知った店員ではありませんでした。いつもの渋面の店員は、壮年の男性でした。そもそも人が違うのでは、対応を比較する意味は薄れてしまいます。僕は弱り果ててから揚げ弁当を受け取りました。するとおかみさんは、年の瀬だからでしょうか、「こんなの御要り用かしら?」と小さなカレンダーをつけてくれました。カレンダーは間に合っているのですが、ありがたく受け取って店を出ました。それ以来そのホカ弁屋に行くことはありません。